布留川 勝の人材育成の現場日記

G研報告( 133回)「IMD流のグローバルリーダー教育とは?」

2016/09/25

グローバル人材育成研究会(G研)

ビジネススクール

幹部層のグローバルリーダー化として有効な手段として近年日本企業においてもこれまで以上に幅広い業界から注目を浴びているのがビジネススクールの「エグゼクティブエデュケーション」(短期幹部教育プログラム)だ。

グローバル人材育成研究会(G研)においても、この数か月、名門ビジネススクールのディレクター陣の来日が続いている。

6月: ロンドンビジネススクール
7月: ハーバードビジネススクール

そして、8月4日(木)のG研では、フィナンシャル・タイムズのエグゼクティブエデュケーションランキングにおいて5年連続世界1位を取り続けている、IMDからSalvatore Cantale教授をお招きした。

 

 

 

 

 

 

しかし、なぜ今、エグゼクティブエデュケーションなのか?

敢えて一言で言い切るのであれば、「VUCAワールドにおけるリーダーシップの発揮」である。

変化が激しく(Volatility)、不確実性が高く先行きが見えず(Uncertainty)、様々な要素が複雑に絡み合っており(Complexity)、加えて、ものごとの因果関係が不明瞭で、かつ前例もない(Ambiguity)のがVUCAワールドだ。

VUCAの要素が深まるほど、進むべき方向を見出すためのリーダーシップが求められる

自動車業界を例に取ると、これまでの自動車会社にとっての競合他社は他の自動車会社だったが、これからはまったく違った業界から思わぬ競合が出てきて、業界のゲームがガラリと変わる可能性が高い

例えば、自動運転技術の研究開発に大きな投資をしたり、トヨタと提携するなど話題になっている、Uberの創業者のトラビス・カラニック。彼は、究極的には自動車の数を減らしグリーンな世界を目指しており、従来の自動車会社とはまったく違う位置づけから自動車業界に参入している。

また、今までの電気自動車の概念を覆す性能やスタイルを持った電気自動車を生み出したり、垂直着陸が可能な画期的なロケットを開発しているイーロン・マスクのような経営者も参入してきている。

まさにVUCAワールド真っ只中である。

ビジネススクールの「エグゼクティブエデュケーション」では、様々な経歴を持った、多種多様な業界のリーダー人材と共に、大局的かつ異なる観点からビジネスを考えられる
だからこそVUCAワールドにおいて先へと進み、結果を出すリーダーシップを磨くことができるのだ。

そのようなリーダーシップを磨く場に出て、十分な費用対投資効果を得るには、人選と事前準備が成功のカギとなる。
特に日本企業からの参加においては、高い英語力はもちろんのこと、コミュニケーションスキルや、MBAフレームワークも欠かせない。
そして、そもそも「授業を受ける」という受け身の姿勢から「貢献する」という積極的な姿勢へとマインドの切り替えが必要となる。
適切なアセスメントをかけ人選し、また対象者となる方からヒアリングをしながら数多くあるプログラムから最も適切なものを選択し、そしてプログラムのメリットを享受できるように、事前研修を組むべきだ。

G研では、第一部において、私からこれらエグゼクティブエデュケーション参加のメリットと成功させるための準備の考え方を紹介した。

そして第二部では、IMDのSalvatore Cantale教授にご登壇頂いた
彼はイタリア人で、ロンドンで大手投資銀行でアナリストとして働き、その後イタリア、ニューヨークの大学で教鞭を取り、IMDでファイナンスや次世代リーダー向けプログラムの人気教授である。
イタリア人らしい陽気でチャーミングなファシリテーションで、開始早々に参加者から自然に笑みがこぼれた。

そんな、教授にお話し頂いたのは、「IMD流のグローバルリーダー教育」
今、リーダーが舵取りしなければならないのはVUCAワールドと呼ばれる、先が見えない複雑・曖昧で変化が激しい世界。
その世界においてリーダーとしては、どのように問題解決に取り組むべきか?

そこで教授は、普段の授業さながらにBMWやシンガポール航空のケースを用いてのファシリテーション。
ビジネススクールで鍛えられる「思考法」の一部をご紹介いただいた。

シンガポール航空は、航空会社としての格付けが最高ランクの5つ星を獲得した1社だ。
新機材の導入に積極的であり、機内サービスの質の高さ、顧客満足度の高さで評価されている。
そうなると、さぞコストも掛かっていることだろう、と考えがちがだが、実は2001-2009年の記録では1席あたり1km動かすコスト、という指標で見ると、LCCを含む他の航空会社と比較しても格段に低く、最もコスト効率の高い会社ということが明かされる。
シンガポール航空は、様々なイノベーションを起こし続けている企業だが、あらゆるレベルで対立する2つの要素の両立を実現している。

例えば、
・トップダウンでの中央集権的なイノベーションと、現場からのボトムアップでのイノベーション
・他社に先駆け最新機材を導入するテクノロジーリーダーでありながら、バックオフィスでは実証済みの技術を使いコスト効率を高める

どのように相反する要素を両立させながら問題解決するのか?

教授が紹介したのは得たい成果に応じて4つのレベルの思考を柔軟にシフトさせながら意思決定をする考え方だ。

Level 1: 問題型思考
白か黒かはっきりさせる思考法。

Level 2: パズル型思考
問題は白か黒かではなく、「程度」問題という思考法。

Level 3: ポラリティー(極性)型思考
両極端の状況を併存させる思考法。

Level 4: パラドックス(逆説)型思考
白も黒も併せ飲み、新たな方向性を見出す思考法。

例えば、シンガポール航空の例であれば、リーダーの目指すべき方向が、
「顧客サービスとコスト低減、という一見相反する目的を達成しながら結果を出していく」ことであれば、

Level 1:
高いサービスを提供するオペレーションから、ローコストオペレーションのどちらか。

Level 2:
受け入られるレベルでの顧客満足と最低限必要なコストとの妥協点を見出す。

Level 3:
顧客サービスのある要素においては集中して、別の要素においてコスト削減する。

Level 4:
もし一番初めに最適なサービスを提供できれば、無駄な活動を削減でき、その分のコストを取り除ける。そしてその分を顧客サービスに再投資できる。

常にLevel 4の考え方でいる、ということではなく、出すべき答えに応じて思考のレベルを変化できることが重要で、こうしたことを学べるのが、まさにエグゼクティブエデュケーションの学びの本質であり、IMD流グローバルリーダー育成とのことだ。

まさにエグゼクティブエデュケーションの一端に触れらた時間となり、予定の2時間もあっという間に過ぎた大変密度の濃い時間だった。

<終了後にSalvatore Cantale教授、専務取締役の福田と>

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