布留川 勝の人材育成の現場日記

新入社員の海外研修の投資効果を問う

2013/10/02

海外研修(若手・中堅)

海外研修報告会

先週弊社がコーディネートを担当させていただいた82名(日本人、中国人、韓国人、マレーシア人)の新入社員が3ヶ月の海外研修を終え、帰国報告会が行われた。研修先は、米国、英国、カナダの語学学校である。1校につき3~4名のメンバーで、語学学習に加え、アクションラーニングを取り込んだ研修だ。上記82名以外に、インドネシア人と中国人の2名は日本国内で日本語研修を行った。
報告会は8時からスタートし5時までと長丁場であったが、新人からの質問がですぎるほどの盛り上がりであった。
28組のプレゼンテーションをすべて見た感想は、ただ一言、「なかなかやるな!」である。
昨今、日本の若者は留学を嫌い国内志向が強いと言われるが、そんな心配は吹き飛んだ。
それぞれの上司も見学にいらしていたが、たった3ヶ月で堂々と英語でのプレゼンテーションをこなす新人達に驚いていた。グローバル展開を加速させているこの企業にとって、頼もしい若手の出現は喜ばしいことである。

さて、こうした新入社員の海外研修の企画運営や投資効果についてよく問われる。
そこで、よく聞かれることを以下の4点にまとめてみた

1. 海外研修は欧米で行うのが良いのか、新興国がいいのか?
2. 期間はどのくらいが妥当なのか?
3. 語学や異文化スキルを学ぶために語学学校か、現地に放り込んでサバイバルか?
4. 海外研修の投資効果とは何か?

一概にこうとは言い切れないが、一般的な想定のもとに私の答えは以下である。

1. 海外研修は欧米で行うのが良いのか、新興国がいいのか?

欧米、新興国、いずれにしても最も重要なポイントは、研修の質である。新興国に展開する企業にとっては、新興国が研修地として良いという判断もあるが、研修の質が担保されなければ無意味である。ここで言う「質」とは、教育機関の質、講師の質、プログラムの質、そして参加者の質である。
残念ながら、新興国での研修は、これらの質においてまだ低いと言わざるを得ない。したがって、答えは欧米の方が適していると考える。
ただここ数年で、新興国においても日本企業のニーズを学習し、質を高めてきているものもあるので今後が楽しみではある。

2. 期間はどのくらいが妥当なのか?

語学を習得し、ダイバーシティスキルを身に付けるには最低1年は必要と思われる。しかし、それは理想であって、現実的には3ヶ月から4ヶ月という決断をする企業が多い。上記の82人の研修期間は3ヶ月であったが、かなりの効果が見られ本人も企業側も満足度も高い。

ただし、研修効果は期間の長さに関わらず、国内での事前研修の内容によって大きく変わる。国内での事前研修で英語研修をしたり、異文化理解をするのではなく、グローバルマインドについて考え、グローバル化することの意味を理解することから始める。また、プロアクティブに研修に取り組む姿勢や、そこに必要なコミュニケーションスキルなどを学ぶものだ。
新入社員の海外研修に関して、これも良くあるご相談だが、新入社員が「学生帰り」してしまった、ということを防ぐ上でも効果的だ。また、海外では「トラブル」ばかりで、海外嫌いになったり、または英語が出来るからもうOKという勘違いが起きることもあるが、そこに対応している。
「研修に行かせるのに、事前もするのか」と反対の声が挙がることもあるが、これらがあるなしでは効果は大きく違うと強調したい。
実際に、これまで他社で海外研修を行ってきた企業において、「御社に切り替えて以来より高い成果がコンスタントに出るようになった」、というお言葉を多数の企業において頂いている。

3. 語学や異文化スキルを学ぶために語学学校か、現地に放り込んでサバイバルか?

現地に放り出して苦労させれば、自動的に言葉も文化もタフネスも身に付けてくる、というのは幻想である。100人に1人か2人はそんな人材もいるが、私の経験からすると、逆に遊んでしまうかつぶれてしまうケースが多い。
若者を甘やかすな、現地で苦労させろ、といういわゆる「サバイバル研修」は20年前から繰り返し行われてきているが、ほとんどの場合1年から2年で打ち止めになるケースが多いから要注意だ。サムスン社の同様の研修がよく引き合いにでるが、研修生の英語レベルは皆TOEIC900点以上だ。研修開始時に現地に適応できる英語力がないのに無理に送り込むのは得策ではない。
また、現地法人に預けるような場合は、英語力はもちろんのこと、コミュニケーションスキルなども十分に訓練してから送り込まないと、翌年から迷惑だから受けたくないという返答が現地法人から返ってくる例が本当に多い。

4. 海外研修の投資効果とは何か?

英語力、異文化対応力の向上や更なる自己変革意欲が高まる海外研修だが、最大の投資効果は、新入社員の帰国後にすぐに現れるわけでは無い。専門性も身に付いていない、経験も浅い新入社員に大きな仕事を任せるわけにはいかないし実際にできるわけもない。
本当の投資効果は、早ければ5~6年後、あるいは彼らが課長や部長になった頃に現れるはずである。
私は、この仕事を25年以上やってきている。私が20年前にコーディネートした海外研修の新入社員はすでに40代である。当時の若手海外研修制度を抜けてきた人たちの中に、グローバルエリートと対等に協働できる人材が出てきている。もちろん、全員というわけではない。その時の強烈な刺激をきっかけとして、自責で英語力もグローバルスキルも自ら磨いていった人材である。
こうした人材は会社に対するロイヤリティも高い人が多い。

10年ほど前にもてはやされたグローバルビジネスはMBAを採用して彼らにやらせればいいではないか、と言う話は最近あまり聞かない。伝統的な日本企業にとって、そのようなご都合主義はあまりうまく機能しなかったからである。
結局、今頼りになっているのは、生え抜きのロイヤリティの高いグローバル化した部課長クラスなのである。
新人の海外研修の投資効果の中核はここにあることは押さえておきたい。

もう一つの投資効果としては、グローバルマインドを持った優秀な人材を採用する時のレバレッジになることである。
新入社員の海外研修制度を持つA社、持たないB社では学生側から見ると大きな差がある。
実際、新入社員の海外研修制度を持っている企業は、毎年優秀な社員の獲得に成功している。5年以上継続している企業はさらに効果が出ている。
例えば、新入社員を本社と海外拠点とのブリッジパーソンとして育成することをねらいとしたプログラムを行っている企業では、今年で5年目を迎えたが、最近は採用面談時から、「この研修プログラムに選ばれたい」という意欲あふれる学生が応募してきている、と人事ご担当者も喜ばれていた。

①生え抜きのロイヤリティの高いグローバル人材を育成できる、②グローバルビジネスに関して意識の高い学生を採用できる。
海外研修の投資効果は以上の二点であると私は考えている。

冒頭の82名の中から、5~6年後にはきっと頭角を現してくる人材も出てきているはずだ。
どのような活躍をしているかを考えると今から楽しみである。

グローバル人材育成研究会のお申込はこちら

関連記事

人気記事

グローバル人材育成研究会【G研】のお申込みはこちら

ページ上部へ